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瑞牆山の近くに、小川山があります。
金峰山と瑞牆山が深田百名山である御蔭様で(嫌味ではなく)、それぞれが2500m超、2300m超の御山様であり、この時期マイナス15度にもなろうと云う厳しい条件をもろともせず人影が絶えません。
小川山は、その直ぐ目と鼻の先にあります。
夏でも、小川山の頂を目指す山人は少なく「不遇の山」とまで云われてしまっていて、なんだか深田百名山がもたらす蔭、その蔭に隠れてしまっている感があり、やはり御蔭様と想ってしまうのは・・・嫌味かな、ははは。
が、しかし、蔭と云っても暗くなることはまったくありません。
登山者には不人気なのかもしれませんが、クライマーにとっての「小川山」は、反射神経のように「フリー」なのです。
それも日本一の「クライミングのメッカ」という誉れ高き称号でクライマーの心を掴んで離さない御山様なのですから。
自分自身は、寄る年波に負けて、フリー、つまりフリークライミングを引退宣言をして数年経過していますが、昔は、片腕懸垂や、両の手の中指一本で懸垂したりと、鍛錬にも程があると自嘲の修行?の日々を過ごした時期もあったのです。
やめてから数年は、指や肩が寝ていてもボキボキというような、ある意味後遺症が出る程に筋力、関節を酷使するスポーツでした(やり方が悪いだけなんでしょうけど)。
そんなこともあり、岩を見ると、今も相も変わらずに「登りたい!」という想いが心の中にポツ念と湧き出すのです。
登山に達成感を求めてゆくと、当然のように難度を上げてゆくことになります。
どこそこにの山に登った。
何時間で登った。
テント泊で、どこそこを全縦走した。
などなどの自慢話を勲章にし、一端の岳人を気取り、さらには、やれ厳冬の山だ、単独行だなどとゆうように流れてゆく。
心技体の極限を求め、果ては虜憑かれたかのように命を削る道に進んでゆく・・・人もいます(苦笑)。
気がつけば「ドーパミン&アドレナリンジャンキー」の仲間入り、いやこれは自分の話です。
皆さんがそうだとは云っても思ってもおりません、誤解を招き失礼ですね、「ごめんなさい」。
そんな山に向かう気持ちの進化の過程には、いくつかの枝別れの道が待ち受けています。
いつの間にか二本足での登山から離れて、肢体を自在に駆使する登攀の世界に魅かれ、あるいは憧れ、足を、いや全身を踏み入れてゆく。
そうだなあ、本格的な沢登りか、エイドクライミングかに二分されるかな。
いずれにしても人工登攀と呼ばれる道具を使った「登りの道」に進む「もののふ」です。
そんな「もののふ」の前に・・・忘れもしない1980年1月のこと、「岩と雪」72号の表紙によって、日本のクライミング界に、一大センセーションが巻き起こります
忘れることはない笑劇・・・でなく衝撃でした。
日本中のクライマーが黒船来航ってこんなんだったのかと想える程に震撼し、その後のクラミング人生を誤った人間も大勢出た(だろう)大事件でした。
その表紙で、ジョン・バーカー氏が登る姿には、ヘルメットはおろか、ハーネスもなく、いや登攀用の装備の「そ」の字のかけらも映っていなかったのです。
それは落ちたら死ぬことを意味している。
フリーソロ・・・ 直訳すれば、「自由・孤独」
その言葉に感じた想い・・・今も忘れられません。
自由な孤独人(びと)と頭の中で置き換えました。
その響きの中にクライマーに共通しているであろう「自我の解放と自然との調和、共存」と云うような実に哲学的なテーマの答えが、そこにあるかもなあとも感じました。
もちろん、そんなことは、「岩と雪」の何処にも書いてはいませんでしたよ(笑)。
フリークライミングウィルスは、瞬く間に日本中のクライマーに蔓延していったのです。
道具を使わずに人間の肉体と精神の限界に挑むスポーツは、たくさんあります。
マラソンや水泳もそうでしょう。
しかし同時に、自然に向き合うというスポーツは、そう多くはありません。
しかも相手は、岩、それもとても素手で人間が登れるはずもないと昨日まで信じて疑うことのなかった、見上げると後ろにひっくり返りそうな岩壁なのです。
まさかその岩壁を道具無しで登ろうなどと云う発想はあり得無かったのです。
とにかく日本のフリークライミングは、このバーカー氏が「ミドナイトライトニング(岩名です)」を登る写真からはじまったと云っていい。
ご多分に漏れず、私もそうです。そして彼の生き方に影響を受けた一人といえます。
あれから約29年、フリークライミングの歴史は、古いようで新しく、新しいようで古いですね。
その後、日本から平山ユージ(裕示)という天才フリークライマーを生み出すに到ったことは、クライマーならだ誰でも知っていることです。
平山ユージのフリークライミング参考動画
http://www.youtube.com/watch?v=7Csdo59GHnI
後編につづく